• どくしょかんそうぶん

    「The Last Days of Peter Bergmann」を観た

    なんですかそれは、という人が殆どでしょう。全編英語で字幕もなし。上映時間は20分に満たないものですが、その内容は実にグッと心に響きます。以下ネタバレです。

    2009年、夏。アイルランドのスライゴ…の北西、海沿いの村。初老の男性が遺体で発見される。彼の身元を調べていくと、驚くべき事態に発展する。彼が誰だか、わからない―――。

    現場近辺の地図は以下のリンク。宿泊先のSligo City Hotelもストリートビューで見れます。

    https://goo.gl/maps/SyVku4ijCaQ2

    作中のとある場面を同じ場所を偶然発見したので記念にリンクしておこう。
    https://www.google.co.jp/maps/@54.3052376,-8.5672705,3a,75y,275.48h,84.12t/data=!3m9!1e1!3m7!1scIexncBiyUqo9g6a71ovyQ!2e0!7i13312!8i6656!9m2!1b1!2i49?dcr=0

    そんな彼、”Peter Bergmann”の最後の日々の様子を、ホテルの従業員、目撃者の証言と、監視カメラの映像で構成していくドキュメンタリー。穏やかな音楽と時折挿入される風景の美しさに、うっとりする。

    Peter Bergmannはおそらく偽名で、住所も虚偽のもの。彼が誰だったかを示すものが一切残っていない。警察は彼の身元を特定しようとするも、至らない。例えば。彼はホテルから紫の手提げ袋を持って出かけて、手ぶらで帰ってくる。何かを処分しているのだろうか?監視カメラでは街中を歩く彼の姿が幾度となく目撃されるが、しかし、その処分している場所が特定できなかった。最後のチェックアウトからバスターミナルまでの間には、彼のショルダーバッグも数が減っている!

    彼は海沿いの村で「奇異な黒い服の男」として浜辺で目撃され、翌朝には遺体が発見されている。ホテルには3日宿泊の予定でチェックインして、その通りにチェックアウトしている。予定通りの行動であったわけだ。恐らくは死ぬところまでも?検死によれば、彼は癌に侵されており、遺体から痛み止めなどの薬剤は検出されなかった。

    彼がここを死ぬ場所だと決めて訪れたのだろうか。たまたまここになったのだろうか。IDを何も持ち合わせていないことなどから、予定通りの行動だったとは思うのだが、彼がどこかに捨てたはずの紫バッグの中身が見つかっていない。地元の警察の捜査に関わらず。彼はこの街の監視カメラのアングルをある程度把握していた…?

    いずれにしろ、彼は偶然身元不明なのではなく、誰かの意図で誰だか分らぬようになったということ。願わくは彼一人の意図であってほしい。彼は最後に自分の人生を塗り替えた。家で孤独に一人死ぬよりは、こういう方法を選ぶという考えも、実によくわかる。ましてや病とあっては。自分もこういう死に方の準備でもしておこうか。偽名は、そうだなあ…まあ…。
    ——
    何かイベント時のものと思われる作者と聴衆のQ&Aセッションの動画がこちら。自分にはとても聞き取りにくくて、内容を把握するのは難しそうなんで諦めた。

    https://www.youtube.com/watch?v=ExJy7EXwTM8

  • ふでのゆくまま

    もしもあなたの車が勝手に動いて安全に目的地に着くならば

    中で寝ますよね?

    一定の条件下で自動運転モードになるような機能のついた自動車の宣伝がながれておりました。そのような機能が発動したあとは、運転に集中する必要がなくなるため、車内で精神の病を発症したようなテンションで大盛り上がりではしゃいでいる家族というような描画がされていて、そんなわけねえだろと思いました。自力で運転しなくても移動できる状態が、それそのままタクシーや電車のようなものだと考えると、まずは寝るのでは。

    人は仕事に間に合うように目覚め、勤務地へ移動します。寝ながら移動ができないためです。勤務地の隣に住めないからです。おうちを勤務地にするという手法で解決を成し遂げた人もおりますがまだまだ少数派。人間は寝ないと病み、やがて死にますね。寝ましょう。

    中では眠っている人が横たわっている車が大量に走っている世界。どうでしょうか…。駐車場が看板をモーテルに変えたら当局から消火設備がないと指導を受けたとか、電車で寝るホームレスが「専用個室とは豪勢」だねえと感心したとか、帰るのが億劫だから車に住んでたら住所不定になってクレカの審査落ちたとか、一切の凸凹のない安眠道路が建設中だとか、販売店のオプションに枕があったとか。まあこんな小噺ぐらいになるな。いや、枕か。わはははははははは。爆笑の渦。

    ま、渦を巻くぐらいの人数だったら、ぐーすか寝てないで何をしましょうかという話なんでしょうけども。車の作りって、みんな同じ向きに座って前に二人後ろに三人とかで…その座席で何しましょうね?どうあってもピンと来ないCMに眠くなる春の一日でございまし。

  • ふでのゆくまま

    せとうちフェア

    近場のスーパーでやけ食いの依代を漁っていたところ、店内放送が耳に入った。

    「とうてんではただいま、せとうちふぇあをじっししています」

    瀬戸内フェア。なんとなしに見当がつくが、ふと寂聴のほうを想起してしまった。ボンカレーのパッケージが目に入ってしまい、それを脳内で寂聴に変換したところ実に愉快な買い物ができた。ボンカレーは買わなかったすけど。

    こんな一言を書くために瀬戸内寂聴についてネットで調べると、実に豪快な人である。出所が怪しいような情報もあるものの、ちょっとイメージと違っていた。こういう味わいを人間味と言うのだろうか。故事に言う、英雄色を好む。談志が言う、業の肯定。それでいて清らかで純であるという雰囲気を称すならば…例えば「徳」とか?

    まあ寂聴さんのケースでは法曹に属していないとまた色眼鏡の色が変わるかもね。西原理恵子みたいな扱いになったら楽しかろう。具体例は書かねえ。徳が下がるし。

  • どくしょかんそうぶん

    「八つ」を観た。

    ググろうとすると著名な日本の映画がヒットしてしまう悲しみ。原題は「Ei8ht」

    ネタバレです。これはお勧めの作品なのでネタバレ嫌な人はこんな場末のブログなど読まずに直ぐに作品を見ましょう。

    作品が始まってしばらく。鑑賞していると、ふとこのタイトルの意味に気付いて「ぬおっ」と驚いた。気付いたからには作中、最後までずっとそこが気になって気になって。まあそのトリックというか状態こそがストーリーの本質であるわけで、そこに注視しても楽しみを妨げない。ところが映画を見終わってから作品紹介文に堂々とその意味が書いてあるのに気付いてさらに「ぬおおおおおおおおっ」って。そこでわかっちゃうのちょっと興ざめ過ぎないでしょうか。まあ、他にもそういう作品と紹介文はいくらでもあるでしょうし、自分が作品中で先に気付いたからこういう感想になるのかもしれません。がっかりポイントの一つではありますが、紹介文を回避して作品に辿り着くのも困難なので、意図せず紹介文的コンテンツをすべて見逃して先に鑑賞した自分は運が良かった。皆さんにも一応避ける努力を推奨しますよ?

    で。観れば、これがどういうシチュエーションでの物語か分かる、という人が多数かと思う。説明的なものは一切なく、一人の登場人物をカメラが追うだけであるにもかかわらず。こういうシチュエーションに直面した人生がこの世界にあまた存在しているのは、認知されていると思う。だから、意味が分からないという事にはならないと思う。敢えて言うならわかりやすい。奇異に映りこそすれ、演技の意味がわからないというものでもないと思う。逆にもし、全くわからない人には見どころはない作品ではある。例えば肌の色が違う人種を知らない人は、なんでそんな色を塗っている?と思うかもしれない。象を知らない人は、誰かの象の物まねを評価することができない。この作品を観始めて「なんだこれは?」という人は、おそらく本当にこいう人々について何も知らないタイプかもしれない。

    エンディングに向けての流れが、如何にも映画的手法な感じのあるドキュメンタリー作品なんかと比べると、とても斬新でした。あれだけ困難だった壁をクリアし、あばばばばばばばばって混乱したまま外に出ると、それはそれは、そこには普通の世界しかありませんでした、と。朝の街並み。そらそうだよね。平穏だとも言えるでしょう。冷徹だとも言えるでしょうよ。その中にただ一人佇む、あの人物の姿の凛々しい事。そのまま第一話完、みたいな。ゲームだったらLoadingとか言い出しそうな場面で、映画はエンディングへ進む。びっくりしてしまった。

    これは、万事解決ばんざーいって適当に抱き合って喜んで終わるような、感動物語じゃないんだよね。果たして明日には?というかそれ以前にその日これからどうする。自分にはちっとも救われずにすごすごとおうちに引っ込んでいってしまったようにも見えた。展開が腑に落ちないとか、後味が悪いとか言い方はいろいろあるかもしれないけど、また一つ確認できることには、”お外”は確かに恒常であり、あばばばばばばばばと騒いでいるのは自分だけでありました、というのも救いですよね。「あ、原因おれだったはwwwwwwww」という心持ちに落ち着くのも、救いなんです。違いますか?

    斬新と言えば作品一本を通してシーンチェンジがなく、ずっとカメラが物理的に演者を追い続けたまま最後まで進行します。場面も彼女の周りだけ。例えば振り向いたら別の角度から撮るとかもない。電話が鳴ったら次のシーンは電話のアップ、とかあるあるもない。だからカメラに視線が来ることもない。カメラの移動が終わってから何かを始める、というような間を感じなくもないけどねwwwwwwww実際の撮影時にはそらNGも出るだろうし、見ている人には気付かないようにある程度の時間で繋いであるのかもしれない。まあ見る分には全くわからない。コメンタリーとかあったら面白そう。amazonプライムビデオにはそういうのないからなあ。

    演技は素晴らしいの一言。本当に見事なもんだなと思う。これは映画なんですよねえ。あと、おっ8い。( ゚∀゚)o彡゜