ふでのゆくまま

ひねり出す鋭意

題名に意味がない。「心理学というものは今後は医学に淘汰されていく」、そんな話を高校生の頃担任に聞いた。クソ田舎の高校生たち、どこかしらの大学には入れるだろうという程度の我々は当時、世の中にどんなジャンルが学問として存在するかということも知らなかった。学問を修めて、で、どうするか、などという事に考えが及ぶはずもない。大学の学部名に出てくる単語こそが人類の叡智として誉れ高いものですらあった。いや、ごめん、これは嘘。いま思いついた@2009 ともあれ。

「音楽」とか「体育」という時間割と同じ程度に考えていた。「経済学部」となれば経済を勉強し、「法学部」となれば法律を勉強するのだろうし、「文学部」となれば文学を勉強するのだ。ううむ、凄そうじゃないか!今考えれば随分と酷いと思う。ジャンルは兎も角大学に行きたい、なんていっている奴もいた。当時は「また軽い考え方だなあ」なんて思っていたけど、今にしてみればその考えは正解という感じがする。大学に入学することをきっかけに全て変わったからねえ。

高校も三年生になり、これならまあどこかの大学には受かるわな、などと、偏差値六十なんぼか、など、と、いう数字をまた特に考えもせずすっかり信頼し、筒井康隆の本など読んでこりゃあおもしれえ、ギターにもだいぶ真剣にのめりこみ、などと愉快に日々を消化していると、三者面談というものがやってきた。担任、母親、俺で面談。
担任:「勉強してるか?」
俺:「ギター弾いてます」
担任:「ほほう」
母:「(こいつは・・・)」

担任:「まあ大学行ったらまた好きなだけ弾けるし、本も読めるぞ」

そんなことに全く考えも及ばなかった。大学生も、高校生と同じように日々学校に通い、教室で勉強するもんだと思っていた。自分はその頃、どうも屁理屈っぽいところがあり、文章を読むのも苦ではない、そして稼ぎが良いらしいという程度の理由で、法学部から司法試験というコースを考えていた。それがどれだけ厳しい道のりかを全く調べもせで、その場で得意げに担任と母親に打ち明けるつもりだったんだけど、・・・思わぬ担任の一言に動揺してしまった。まあ黙るわけにもいかないのでどーのこーのと法学部志望の理由を話す。ほむほむ、と頷く担任。資料の山からなんか大学ごとの資料を引っ張り出すと、中央大学や一橋大学といった法律稼業の人間を輩出している大学の偏差値などのデータを見せてくれた。・・・。クソ田舎進学校であるところの自分の高校からは現役で進学したものなど皆無だった。

本を読むのも良い、と、担任は言った。文学部を出ると、司書とか学芸員とかそんな資格もある。筒井康隆が面白い俺には法学部よりも文学部のほうが楽しく思われた。何より先ほど見せられた入学試験の難易度により、法律稼業など真剣に考えているのでもないのに、無理なんじゃないのかと思い始めた。どういう仕事をして、どういう人生を送りたいか、なんて当時全く考えたことがなかったろう。

なるほど、国立大学は授業料が安い。またそんな理由で受験資料をぺらぺらめくりはするものの、ではどこで何を学びましょうという考えは空白になってしまった。卒業したら職に就く、などとは高校入学以来一度たりとも考えなかった。バイトすらしたことねーのに。「七瀬ふたたび」とかを読んでいたと思う。サイモン&ガーファンクルを練習していた。勉強しなかったので理系科目にはついていけず、というかついていく気もせず、センター試験は受けるものの国立に行けるかは微妙、そんな感じに。

という中で、冒頭のセリフ。となれば、なんと無しに秘密めいて面白そうな「心理学部」なんていうものも、イマイチに思われた。教育実習生が来たが、当時の自分たちから見ても全く酷い出来で、大学で学ぶということはどういうことなんだとか考えた・・・のを友達と愚痴っていたら、東京に出たくはないの?なんて聞かれてまたはわわ。うーん。夏休み宿題の読書感想文で先生方になんか絶賛され、調子に乗る。大学生の頃は帰省するとその賞状が飾られていたっけな。

父親は仕事になるような学部に行かせたいようで、法学部を薦め、文学部には顔を曇らせた。自分だってどっちも行った事ないだろと生意気言ったら茶碗が飛んできた。母親に聞いたら、父は大学を中退しているらしく、原因はまあ、当時の大学は勉強するにもこまる状態だった、らしい。闘争のことかな。きっちりと大学で学問を修めて欲しいようだが、正直、自分が何をしたいとか、何を勉強する、とか、面倒なので考えるのをやめていた。ただ、家に金がないのはわかっているので、国立だったら良いかな、ぐらい。

結果、東京にやってきて、なまくら教授のおかげなど諸々あって、法律の学問を投げ出し、想像したとおりの、「高校生のような授業」で単位だけはさくさくと余裕でかき集め、きっちり卒業し、フリーターになり、今がある。将来を組み立てる、などそんな上手く行くわけもないし、だったら何か熱意を持ち続けることが出来るものに取り組んだほうが、何かこう、RPGでいう経験値とかスキルポイント的な恩恵は大きい。その熱意すらある時ふうううっと冷めて消える。それをまたたきつける燃料、くず鉄からひねり出される鋭意、その辺が肝要なんだな。うふ。

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