どくしょかんそうぶん

“世界侵略のススメ”を観た

原題は”Where to Invade Next”で、「次に侵略すべきところ」みたいな意味か。映画の内容を加味して、学問のススメから邦題を頂いた、という感じでしょうか。以下ネタバレでござんす。

先ずは都合が良い事を言っているなあという印象。映画の造りは、戦争に勝てないアメリカ首脳陣に憤慨したマイケルムーアが、世界からアメリカのためのアイデアを略奪してくる、という筋書き。「アイデアを頂いた、アメリカ国旗を立てていく!」って勇ましい演出で如何にもコメディっぽいけど、インタビューや現場への潜入は実に普通に行っている。だもんで…なんかこう、ヘコヘコと御呼ばれしてお国自慢だけ聞いて返された老人に見える。ひったすらに”素晴らしいこと”ばかり聞かされて、もっと突っ込むところがあったりしなかったんだろうか…。という疑問は映画のオチで納得する。冒頭のは世に言う前フリってやつだわな。

マイケルムーアのリアクションは実に自然で、かつ作品の全体的な流れに沿ったものだと気付く。「さあさアイデアをよこし給え」と凄んでみたものの、「あら、うちでは当然でござますわよ、お隣でもね。ヲホホ…」って返されて( ゚д゚)ポッカーン…。こういう体のリアクション。まあ侵略に来た!なんて前フリ忘れてんだけど。

「お国自慢を聞かされて」って書いたけど、実際は自慢でもなく、その国の単なる日常。そしてそれは日本人がみてもうらやむようなものも多かった。イタリアの労働環境、フランスの給食、アルメニアの教育、etc…あとは自分で見てやってくれAmazonプライムで無料枠なので。日本人が見ると多分胸にもやもやが残るのは死刑制度とか囚人の扱いとかだろう。自分もああいうのを見ると文化の違いというか、物事の割り切り方?の違いというものを感じる。この国には親の仇を云々の頃から、悪人はその罪に関連する正当な権利者によって報いを受けるべき、という価値観があって、それはもう揺るがないんじゃないかと思う…なんども引き合いに出されてしまう事案だけども、ブログで触れるからにはリンクは貼っておくものだろうか。

光市母子殺害事件

マイケルムーアと登場人物のやりとりは実にリラックスした雰囲気の、気さくなものである。だけど、社会の仕組みなんかの話はみんな真剣に耳を傾けるものなんだろうか…さて…。映画のオチは、最後にマイケルムーアによって語られる。「略奪に訪れたアイデアとやらは、実はアメリカ生まれの物がいっぱいあった!」ということ。アメリカでかつて為し得たことが、現代では蔑ろにされているのではないか?という問いかけになっているようだ。労働や教育、どこの国でも問題を抱えており、その対処は様々で。この作品ではかつてはアメリカ発であった(とされる)アイデアで、訪れた国では素晴らしくうまくいっている事案ばかり並べられているように見える。しかしネガティブな効用だってあるんじゃないだろうか。失敗だってあったろう。ところがそんなところには無粋なツッコミは入れずに映画は語られる。ここが少々物足りなさを覚える。あるいは本当に無いとでもおっしゃって?ヲホホ…。

この作品自体はとても良い。素直に受け取れる点も多い。マイケル・ムーアのアメリカに対する愛情を感じる。あるいは憐みかもしれない。でも、これを全部鵜呑みにするもんでもないと思う。「実はアメリカ生まれの物がいっぱいあった!」というオチを言いたいがために取材の対象も、テーマも選別しているだろう。数十人の子供らが犠牲になった事件を引き合いにだして、たった一人の犠牲者の親御の意見でまとめてしまうなんて、ヌルいというかズルくない?世界の何処にもユートピアなんてないけど、その土地、その土地でやっていくしかなくて、覚悟と努力となんなら犠牲もあった筈なんだよね。そういう話は出てこない。いやースバラシってずっと言っている。

でもこんなの見せられては、うっとりしてしまう。はぁ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~と長いため息して、腰を抜かしてしまう。立ち上がる気力ありますか。我々はとてもじゃないが上手くいっている国に属すると思えない。どっちかと言ったら社会の未来は暗い。何か繋ぎ止めるものを渇望していると思う。やはりうちの国からも誰か侵略者を出すべきなんだろう。幸いなるかな、みなさんは個別に侵略することができる時代です。ちょうど教科書に出てくる文化人たちが、かつて欧州で学びそれを持ち帰ったようなことが。

あゝこれにて正しく世界侵略のススメと。

映画自体は面白いです。「ほえ~そうなんですね~」って眺めるだけでも心に響くものがあります。でもやっぱり、どこか眉唾なんだよね。真実を追い求める的なテンションではないことに留意して楽しみましょ。

あと「イタリア人はいつもセックス直後に見える」は名言。

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