人の植えた種ではアスファルトを貫けない
小型のパワーショベルが、前のめりに斜めのまま止められている。腕の部分をつっかえにした感じで、ずり落ちないようにしてある。あの筐体の色というのは業界の流行や、あるいは何か法規の定めがあるのだろうか、瑠璃色のボデーからは機械の力強さを感じない。どうしても黄色のごつい印象が強い。または、現場によって何かこう、色のパターンを考えて、より目立つようにして事故を防ぐなどの工夫がされているのかもしれない。…うん……実際眺めてみても、お世辞にも目立つとはいえないが…。この色によって見逃すこともなかろう。瓦礫色の山の中腹で気配を殺そうとしているが、瑠璃色のおめかしで見つかってしまった。かくれんぼかお前は。そう思うと、あの体制は手をついて顔を伏せて控えているようにも見える。御意、なんつて。
瓦礫の山はいつ見かけても、それがもともとどのぐらいの質量を砕いたものか、想像がつかない。物置だったと言われればそんなもんだろうと思うし、また同じ残骸を小ぶりのアパートでしたよと説明されれば、ほうほう、と納得しかねない。尤も、砕いたそばからある程度まとめて搬出が始まるものなんだろう。ここはたまに通る道なので、元の建物をなんとなく覚えている。普通の二階建て住宅だったように思う。取り壊されて、奥の塀や裏手のお宅まで丸見えになっている。
というところが、
突然アスファルトに覆われていてギョッとする。先ずは更地になるものだろう、普通。アスファルトとなれば使い道は一つしか思い浮かばない。駐車場だ。しかしこんな一方通行の途中で間口だって広くもないのにそんな筈はないだろう。近隣の住民向けに月極の駐車場になるのか?しかし路上駐車など見た事もない、というような良いモラルの場所だ。やはり不自然だ。駐車場ではないのか?屋外の空き地をアスファルトで舗装する、その駐車場以外の使い道を想像しているうちに、あっというまに大手のパーキングサービスの看板と精算機やらの施設が設置された。ギョイ。ギョッ。
次の買い手や借り手が見つからないので駐車場にした?しかし売るにしろ貸すにしろ、いったんは更地にしないと不動産の商談って進まないようなイメージがあるが。「売地」なんて書いてあって、管理会社の連絡先が添えてある看板。アレみたいなこと。ところが、壊してすぐに駐車場になったという事は、ここまでは現時点の持ち主の計画通りということ。土地取引の知識なんてないけど、たぶんここまで想像はあってそうだぞ。
実は近隣の数軒の土地を持つ大きな地主で、その土地に住む人々から駐車場のリクエストがあった。タイミングよく一軒引っ越しなりなんなりで取り壊しになり、駐車場にした。話の分かる庄屋様。可能性はなくはない。
実はコインパーキング駐車場すっげーーー儲かる。みんなも家など燃やして駐車場にしよう!!これは、ない。この場所でそんなわけねーだろ。素人でもわかる。それでも更地で放っておくよりはマシ、ということなんだろうか。設置とか撤去とかの費用はどうなってんだ?
あの場所は駐車場になってしまった。そこに暮らしがあった気配は微塵もない。家なんて建て替えればみんなそうでしょ、でも、石油色のアスファルトに覆われて、まるでその土地と人々の不幸な歴史を閉じ込めるようn
あっ。「ここは駐車場でした」という実績を一旦作った。これかなあ。