ふでのゆくまま

とは言え夏だ、幕。

例年よりちょっと遅くの休暇、さほど暑くないと良いなと期待したが、故郷はこの夏一番の酷暑、快晴でありました。

今年もここ数年と同じ列車で緑の迫りくる車窓を堪能し、同じ駅で下車する。駅で下車したのは自分一人だった。昨年はもう2,3人居たような気がする。確か盆休みの時期に訪れたので、その2,3人も帰省した人々だったのだろうか。正直、この駅のご近所でもなければ日頃より降りる人も少ない駅だろう。盆休みの時期を外した今年、平日の午前という時間帯に自分一人だけ下車することはおかしなことではない。ないが、こんなシチュエーションはなかなかない。どうかねこの景色…。

いつもの駅から

車掌がホームに降りて、自分から切符を受け取る。其のまま後ろの車掌室に乗り込んで、出発していった。わずか二両の運行である。盛夏で御座い、という青空の下、緑の大炎上をしている水田の中をカタンコトンと去っていく電車を見送った。風が吹く。人の気配がない。映画みたい、というシンプルな比喩が、現実の景色を前に心に刺さり、沁みてゆく。駅舎を通り抜ける。駅員もなければ客待ちのタクシーもない。すぐ傍の自販機で水を買って、一口。昨年とは異なる道を行く。一本下流の(良く調べなかったから上流かもしれない)橋を渡ろうという寸法だ。このルートのメリットは途中にコンビニがあることだ。ちょっと迷っておにぎりを買う。2時間ほど黒いバッグの中に放り込んで運ぶことになるので何か別のものが良いか迷ったのだけど…ゴミも出せないし、結局おにぎりにした。googleMap先生のお導きにより一切の迷いは無い筈だが、何せ舗装が途中であぜ道になったりするから不安でちょくちょく確かめて進む。こちらのルートはそこそこ人家もあるし、別に迷っても何しても平気ではあるんだけども、ふらふらてくてくと歩く。家畜の厩舎の横で干し草?の山に行く手を阻まれたりもする。蹴散らして進むわけにもいかず躊躇していると、反対側から人が通り抜けてきたので入れ違いになって通り抜ける。だいぶ踏みつけてしまったけどあれ良かったのか。

コンビニを出てから40分も汗をかいて歩くと、例年の道に合流する道に出た。さらに15分も行けば完全に合流する。何か面白いものはないかとフラフラ写真を撮りながら進む。寂れた食堂の裏手に山林があり、薄暗さに隠れるように石造りの鳥居が見えた。屈むと鳥居の奥の様子が見える。苔の生えた石畳が奥へ続いており、社殿が見える。小高い山の上へ向かって石畳が階段となって続いているのが見える。山の上には本殿があるんだろう。涼しそうなのでちょっと寄り道してセーブポイントとする。

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残念なことに水が出なかった。階段を登りきったところにも蜘蛛の巣が盛大に張り巡らされていて、全く人の訪れがないのだろう。すでに汗だくの上半身、いっそ水浴びしてしまえと思ったのだけど、無駄足だった。第一の目的地、祖父の墓はそこから10分ほど歩くと着いた。震災以後、倒れたままで放置されている墓石が目立つ。そういうのを横目にいそいそとお供え物を取り出して線香に火を灯すのはなんとも切ない。そりゃ墓前に参るのにウキウキの気分もないが。この天気で温まってしまった日本酒を墓石にふりかけ、盃にも注いで手を合わせる。風が吹かない。体力の回復も見込めないので10分ほどで次の目的地、祖母の墓へ出発する。

直後、田舎にありがちな雑貨屋を見つけ、店頭の自販機で水を買う。近くに昔は小学校だった建物があり、ブランコに腰掛けておひるごはんにする。今は震災の被災者が仮設住宅に暮らしている、らしい。それにしては人気がないのだが、まあ働きに出ているのだろう。おにぎりは平気だった。ここも涼しくはないので、食べ終えるとすぐに歩き出す。車は頻繁に通るが、やはり人の姿はない。このような田舎では移動に車を使うということ、敢えて田んぼの中を走る道路沿いを歩いていること、人々は職場、あるいは学校にいる時間である、などなど、道行く人を見かけないのに至極当然の理由があるのだが、ただ只管に静かな、静かな炎天下を一人で歩くのは何とも言い難い心地になるものだ。

父は何を考えてこんなことをしているのか、と毎年(まだ3回目だ)訝しがるが、ここに暮らす人から見ればそうなんだが、年に一度しかこない自分には通いなれた観光地のような扱いであり、ちょっと気合の入る非日常イベントという感覚。しかしもうバリエーションがないな。来年は逆方向から電車に乗ろうかとちょっと調べたが、前日に始発の駅付近に宿泊しないと同じ時間には付きそうにないとわかった。それもなあ。

第二のセーブポイントである公園に着いた。ここも25年ぶりになろうか。大学生の頃に帰省して、立ち寄ったかもしれない。だとしても15年ぶりとなる。ベンチに横になり、仰向けになる。本格的な休憩を取る。土木作業的な人たちが車の中でうたた寝している。ポケットで携帯が震える。普段の昼休みが終わる時間の、目覚ましだ。中学校のテニス部の声が繰り返し繰り返し響いている。横眼には子供の頃に遊んだ記憶がある遊具があった。やほう、と登る元気がないなーと思いながら雰囲気を楽しむ…。

空より生える

すぐ着くかと思ったが、さらに30分ほどかかって祖母の墓地に。墓地の向かいにできた駐車場に驚いたのは何年前だったか、その駐車場の後ろ側にも墓地が拡張されており、ちょうど職人がまた一基据えつけている所だった。町の人口はそんな増えてもいなかったと思う。墓だけが増えていくというのは何ともアレだなあと思って祖母の墓に進むと、お隣が完全に放置されており、雑草で何家の墓かも見えないという有様で、祖母のほうにもだいぶ中空にはみ出ており、とは言え勝手に引っこ抜くのもなんだか躊躇われて草に火が移らないようにやや離れて線香に火を灯すなどした。

後は我が家に戻るだけ、途中のスーパーで食料を買い足す。調子にのって酒を買う。お土産が何もなかったので差し入れのつもりでアイスを大量に買い、急ぎ足で帰宅。全く間が悪いことに、冷凍庫が壊れていた。のみならず、水道が調子が悪いようで、父がドリルで庭に穴を開けていた。

だらだらと過ごして、寝る。
のろのろと起きて、だらだらと過ごして寝る。

何をするでもない滞在を済まし、駅まで送ってもらう。今年はあまり話し込まなかった。残念ながら近況がネガティブな会話にしかならないからだ。避けれるものではない人生のしんどいポイントが包み込むようにやってきている。冷蔵庫の予算にしてくれと財布から数万円渡す。帰りの新幹線はゴルフ帰りのお父さんたちで想像以上の賑わいだった。華やいだ雰囲気にもの悲しさを覚えながら上野駅にて下車する。

もっと解決できることがあった筈だ

東京に戻った夜、寝床で虫の声を聴いた。

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