ふでのゆくまま

五月蝿い

夏、ですから、そりゃあ蚊や蝿だって闖入してくるってもんでございましょう?あ、ほら、また一匹。ああ、こっちからも一匹。あら、こっちには二匹?あら、こっちにも一匹。あらら、またこっちにも一匹。眠れないときには丁度良いわね?蒸し暑い夜にね、小蝿がいっぴき、にひき、さんびき。という、のっぴきならない状況でございまして。原因は何かと仰せなれば、かつおの刺身の切れ端が冷蔵庫の陰に落ちていて、なにか小さな虫がびっしりと蠢いているのでありました。んげげげげげ。殺虫剤のスプレーを構えたものの、ここで射出してはこいつら飛び上がって凄いことになるんじゃあないか?まだ生きている病人ごと燃やしてしまった人々の気持ちがわかります。対処するのではなく、否定するのですね。

詩情を湛えた生魚、芳醇たる祖国の食材、今では忌むべき蟲の触媒、毒の霧に洗われて尚艶かしとぞ。しゅわわわわわ。あまりにリアルな腐った肉っぷりに、リアルなっていうか腐った肉そのものなんだけど、ハリウッドに発注してもこうはいくまいというほどの、気色悪さ。思わず写真に収めようとしたが、携帯が壊れそうなのでやめた。キッチンに掃除機を進出させたのは久しぶりだ。蝿の亡骸を吸い込む吸い込む。殺虫剤にまみれた食器を濯ぎながら、次はこいつを何で満たしましょうと、にまにましながら、まだいきてる一匹を利き手の人差し指で潰して左右に擦った。自分がここで死んだらああなるのでしょうか。死ぬに死に切れない人は、小蝿を数えると良いです、いっぴき、にひき、五月蝿いdeathねえ。

五月、〆

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