ふでのゆくまま

冷やし箪笥と日照り桶

付喪神なんて言葉があって、長く使った物品に霊魂が宿ってもろもろやらかしたりするという意味なんだそう。ゲゲゲのゲ。はてその依代にはどのぐらいの”溜め”が要るものなんだろうか。百年ではどうだろうか、いやいや千年は要るのではないか、いやいやなんなら数千年。五劫の擦り切れ。もっとも古い人工物ってなんだろうか。自分の不正確な人類史観だと、動物の皮で作った衣類とか、石斧のようなもの…棍棒とか?あるいは…紐とかはどうだろうか。これなら数千年から数万年ぐらいまでレンジが広がるかな?

いずれにせよ、その形のままで残っている可能性に乏しい。そして機能にも乏しい。ゆえに、付喪神の依代としてもいまいちだ。石ころに霊が宿って何しますの。お願い聞いてくれるなら、ツボでも押してもらおうかしら。これが例えばわが国の国宝クラスのものになると、布都御魂剣なんかにはそうですね、玉ねぎ刻んでほしいなあ。頼みがいがある。いい仕事してますねえ。

番傘なんかになるとハンズフリーで雨を避けられたり縁起物を載せて回したりできる。便利な世の中だ。こう、機能が多いものって手っ取り早く(当社比)付喪神つきそうな気がしませんか。キャンプファイヤーに虫が寄ってくるようなもんで、むこうからあら何かしら、ちょっと憑いてみようかしら、なんて。

家電はどうでしょう。わが部屋にはまだ20年物の冷蔵庫と、数万年25年もののレンジがあるのです。そろそろ怪奇現象の一発や二発、起こりそうじゃないですか?例えば冷蔵庫の麦茶がなかなか冷えない、15分焼いてもピザが冷たいとかそういう霊障が顕れる。これには弱りました。鹿島神宮のお札でも頂いてこようかしらん。

そこで調べた。ついには初期装備で付喪神が憑くに至ったという昨今のコンピューターでgoogle先生に問い合わせると、新しいの買えだってよ。すわ、勧請や。あな恐ろし。

150L-170Lほどの、一人暮らしではゆったり使えるものを画策。買ってきたものを全部調理して、三日分ぐらい全部冷蔵庫に収まれば、炊事は週二回以下で済む。最近の冷蔵庫はみな冷凍庫部分が大きめな印象。冷凍食品のクオリティはびっくりするほど美味いものが多いし、自分で作ったものも冷凍しておけば二週間ぐらいは問題ないだろう。…しかし解凍が…霊障が起こるレンジではなあ。ところが当然と言うべきか、両方揃えるには予算が足りない。んで、こういうものをアウトレットや中古で狙う気にもならない。運が良ければなんと半額で!なんてことにもなり得るんだろうけどねえ、それこそ初期装備の付喪神に悪戯されるっつうの。

消費税云々もあって、どうせ10月までにはいろいろ買う。20年物の冷蔵庫なんぞ今すぐにでも買い替えるべきだ。google先生の仰せのままにお買い上げ、決心はついた、ところが、ところが、冷蔵庫は夏に新商品が出て~~という情報を目にしてしまい、うろたえる。はわわわ。新商品が出れば、その新種を買うつもりはなくとも、店頭に並んでいる現行品がお安くなるかもしれない。うーん、うーん、でも迷ってる時間が一番の無駄かー?どうせ予算は五万円程度なんだし。店頭に出向くのは~やっぱ休日になっちゃうかな~

「スんゴゴゴゴゴりゅりゅ」

洗濯機から軽めの異音がする。じつはこいつも、本体に記載された耐用年数を超過している。はーーーお金ないですけどーーー。日本銀行券には付喪神憑かないのかね。この造作はもはや芸術品でしょうよ、機能だってすごいぞ、ただの紙なのに世界を動かしよる。はよ取り付いて増えるぐらいしてみせろやゴルァ。

お金は大事だね、ある梅雨の夜でございました。

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