• どくしょかんそうぶん

    「不浄を拭うひと」を読んだ

    「特殊清掃」という圧の強い言葉を、初めて目にしたのはいつだったか。

    いわゆる孤独死になじみの深い暮らしをしている自分は、いつかお世話になるかもな~なんて縁起でもない想像をすることもある。本当にある。ググって業者を探したりもした。うーん、予約は受け付けていないようだった。自分の亡骸処理を依頼することはない…普通は。普通はね…。昨今は、そういう孤独死現場に対応する清掃業者のyoutubeチャンネルもある。見たことない人はどんな内容なんだろうか?と想像するだろう。もちろん、あなたの想像通りに、どす黒い人間型のシミを清掃したりする。さて。本作はそういう業務に従事する人の話。ゆるやかな画風のようだが、人間のシミの表現はどんな感じになるのかなあ、なんて思って読み進めたみたところ、エピソードが強すぎて結局ド迫力。ひとのよは斯くも荒ぶりけり。

    内容についてはあなたの想像通り。実際に作業をしている人の個人的感想に基づく故に、細かい裏話も面白い。漫画ならではという表現もあって読みやすい。例えば、実際の作業の様子を動画化している業者の場合は、作業現場以外の情報はなかなか動画に乗せにくいと思う。出演?している作業員も現場作業を淡々とこなしている。軽口の一つもない。場所だってはっきりとは分からないように配慮してあるし、依頼主だってほとんど顔も名前もわからない。そりゃあ…そうだろうと思う。一方、漫画作品では顔にモザイクかける必要ないもんね。架空の人物で描けばそれで済む。こんなふうに表現の工夫をした結果、漫画内では語ることが許されたエピソードというのもいくつかありそうだ。本作でも実際に、絶対にお客様の前では「臭い」と言ってはいけないのについうっかり…とか、こんな見積の失敗をやらかした、とか、作業後に霊が憑いたのでお払いにいってお札を自宅に貼っt

    えっ。


    おう、そこにいるのはみっつぁんか。お前は…何がこわい?


    日本の文化や風習で暮らしている。「御霊前」「供養」とかいう概念を丸ごと否定するつもりはない。でも、どうやっても霊だとかお化けが存在しないことは、はっきりしていること。

    例えばもし、孤独死現場の作用作業内容の動画をyoutubeで配信している業者が、「現場で心霊現象が!」なんて動画を作り出したら、自分は憤りを覚える。とんでもない嘘だ。こういうことをされると、死体の形跡がどうこう部屋の汚れがどうこう、なんなら作業自体がヤラセなんでは?って思ってしまう。とても悪質だと思う。ネットで有名になりたいからって放火して回っていた人物がいた。その論法に当てはめてみると、この現場の「ご遺体」というのは、孤独死ではなくなってしまうじゃないかこれはシンプルに怖い。

    漫画だったら何でも良いってことはないと思う。だけど、当人が本当に”そう”思っているなら、実話とか実体験と銘打って作品内容に反映しても、そんなに批判される謂れはないとも思う。風呂で人間のスープになった残骸を網で掬うとか、警察が回収し損ねた眼球を拾って処分するとか、そういう仕事をしている人が、霊がどうこうという話を持ち出してしまう。そんなこころがひとつ、怖い。「不浄を拭うひと」…不浄…。不浄??この言葉に込められたものはなんだろう。

    ドブネズミだって美しいと謳われるのは生きていたから。孤独死テンプレなどと不貞腐れたところで、それはそれはひとのよは美しく、見苦しく、うつくしく…。冷たい雨が蓮の花びらに降り注ぐ、ある秋の一日でございました。