どくしょかんそうぶん

  • どくしょかんそうぶん

    「美術館を手玉にとった男」を観た

    いつものようにAmazonプライムにて。原題は”Art and Craft”。邦題による印象のゆがみを観測できる。事件のあらましを知っている人からすれば、このタイトルはちょっと違うんじゃないの?と思うかもしれない。映画を観終わった自分も、おなじ感想でありんすが、日本のマーケット向けの戦略がございましょう。

    ともあれ、内容は良かった。

    美術館に偽物を売りつけて金をせしめたというような話ではない。彼は作ったものを無料で寄贈している。もちろん、自分が作ったとは明かさない。作中のやりとりでは、事実ではないストーリーを用いて入手経路やらを美術館の担当者に語る。そのようなストーリーを使ってまで、自分が作ったものを美術館に寄贈する動機とは一体なんだろうか。実に興味をそそるところだが、本作を見ていただければ。

    彼の制作作業の一部も作中で垣間見れる。贋作と気づかれず、事件が明らかになった後に個展まで開かれるほどのクオリティである筈なのに、素人目にはがさつな日曜大工のようである。彼によって生み出される絵画が”本物”の出来栄えであったので、美術館はすっかり”手玉に取られた”ということ。さらに、彼は”特別”である点もストーリーに彩りを持たせていると思う。「美術館に贋作送りつけてみた」などと、そこらの輩がやるような軽薄な動機ではないのだ。

    びみょ~~に持ち上げてみたのだが、物語はあくまで彼個人のものだ。彼に害意はないかもしれないが、贋作を作って寄贈する計画性があり、継続の意思もあった。刑事罰は受けなかったようだが、モラルに反するのでは?という主張が当然なされる。彼の”善意”と社会のモラル。原題のニュアンスはこの構図かな。絵を描くにあたって求められる倫理とは?博物館に展示されるに及んでの倫理とは?

    その間にキャンバス一枚挟み込んでしまった男の話。絵になるんですわ。

  • どくしょかんそうぶん

    「1日1ページ、読むだけで身につく世界の教養365」を読んだ

    タイトルから漂ってくる駄作の空気。

    原題は「The Intellectual Devotional」とあり、同名のタイトルで何冊があるようで、それぞれテーマが異なるシリーズものといったところか…。そのまま訳すと「知的な祈り」とか言われるが、たぶん知的なもの、知的であることに対して献身的であるとか信心深いとかそんなニュアンス?これはたまにある、「邦題でやりやがった」パターンか。と思ったけど、実際読み進めるとこれは本書の内容を実に忠実に表現しているタイトルだと思う。実際のところまったく1ページには収まっていないが、一日一個賢くなりましょって感じ。まあ、電子書籍で読んだのでページ数なんて気にしないし、原典に1ページなんて書いてないもんな。

    タイトル通りに項目が365項目あり、それぞれについてwikipediaみたいな蘊蓄と概要が書かれている。じゃあwikipediaでいいじゃんというツッコミがまさにどんぴしゃりん。それでも世界史の授業を振り返るような楽しさもあるには、ある。どういう基準で365項目というものをチョイスしたのだろうか、謎が残るところではあるが。読み進めてみると、著者の好みによるものなんだろうか、ネタが集まらず穴埋めしたんだろうか、「アメリカの作家」とか「イスラム教」関連が比較的細かい。曜日ごとにテーマ決め打ちしちゃっているから、ネタを薄める必要でもあったんだろうか。とはいえ、ブラックホールだとかオペラの楽曲だとか、内容が多岐にわたっていて読み物として確かに飽きが来ない。飽きるほど細かく書いてないともいえるか。「あゝこれは知っているぞ(ドヤァ)」という感想を抱く項目があることも、本書の一つの狙いなんだとうか。読んだ時の満足感という意味ではね。

    自分は「哲学」カテゴリはほぼ全部読み飛ばしたけど、それなりにそれなりの面白さがあった。本書を読むと改めてインターネットがもたらしたものを大きさをかみしめる。本書のお値段3000円となっているけど、Amazonプライムは無料で読めるし、またググって出てくるもののコピペだけでも本書以上に充実したものが作れそうだ。そういう意味ではAmazonプライム以外で読む人いないんじゃない?という一冊でもある。記憶に残っている内容は「ユリシーズ」という書籍について、「そういえば読んだことないなあ」と思ったのと、ドストエフスキーが絶賛されていた…と思う。

    おもいだせねーわググるかー。

  • どくしょかんそうぶん

    「モリのアサガオ」を読んだ

    2004年~数年の連載だった作品。刑務官の主人公の物語。死刑とは、というテーマに沿っているわけだけど、どうしても、あの事件を思い起こしてググってしまう。

    「司法に絶望した、加害者を社会に早く出してもらいたい、そうすれば私が殺す」

    この言葉ばかり取り上げられるけど、本件は本村さんの上司の発言が凄いんだ。…とはいえ本作品とは直接関係ないので、以下いつもの読書感想文。

    特徴的な絵柄でびっくりするんだけど、そこは漫画のマジックでそのうち慣れる。人類はアカギだって普通に読めるんだから大丈夫だ。ストーリーは漫画上都合よく、ドラマ仕立てに進みすぎる印象もあるけど、無駄がなく内容が伝わりやすくて良い。文字が多いのはしゃーない。でも、リアリティに縛られてないとか言えば良いんだろうか、そこが良いところだと思う。例えば「そんな風に筆談した内容掲げるわけあるかーーーい!」ってツッコミどころもある。あれはクイズ番組の回答じゃねえかw

    友情が芽生えた!恋人との別れ!みたいな展開もあって、あーこりゃテレビドラマ化しやすそうだなーなんて思っていたらすでにされていた。

    死刑の是非、みたいなもん、そうやすやすと結論が出るわけもない。制度の出来の良さに議論を持っていくと、さらにこじれる。どうせ完璧なものは出来ないから、failしたときの策を講じるのが人類の知恵だろうと。死刑の対策ってなんだ?とりあえず生かしておくが解決策だなんて言えるか?

    あっ!犯罪が無くなればいいんだ!天才か!ってマイノリティレポートの世界に夢を託すには遠すぎない?あれってテクノロジーの話ではなくて、超能力者の予言だよ?エスエフだっての。

    命の処遇にベストエフォート型でいいのか、という疑問に、しょうがないだろうと結論して良いのか。医療行為だって飛行機運用だってベストエフォート型の命の処遇にも見えるけど…対象に強制力が伴うあたりが違いかあ。

    死んだ人間が簡単に生き返るようになれば、死刑で間違って処しても、メンゴメンゴって生き返ればいいか。…?それだったら例えば殺害された被害者のほうも「いってーなゴルァ!!」なんて言いながら生き返るから罪の重さの概念が変わるかな。

    あっ!死ななければいいのか!天才か!

    これが「間違いを犯さない」「罪を犯さない」よりは現実味があるというのは、わたくしの穿った考えでしょうか。

  • どくしょかんそうぶん

    「網走番外地」を観た

    どうしても田中邦衛を好きになれないな。

    本作は高倉健の出世作らしい。興行的にもヒットし、続編がぽんぽんと生み出されるほどの人気になったとのこと。話の筋書きも分かりやすく、面白い。展開も無駄がないという印象を受ける。あれよ、あれよという間に話が展開するのは気分が良いなあ。えー…読書感想文としてはもう書くこともなくなってしまったので、以下全部余談。

    丹波哲郎を最初に見たときにはもう大霊界がどうとか言ってたので、「砂の器」や本作のように俳優やってる姿を見るのは新鮮だ。もっとも、本作は大霊界よりはるかに古く、見た目が全く違うのでそういう印象になるのは当然の話ではある。演者情報を参照するまで、丹波哲郎って気づかなかったよ?でも高倉健はそんなことなく、あ、高倉健だなーって。彼の出演作品も「新幹線大爆破」ぐらいしか見たことがないのに不思議なものだ。単に顔があまり変化してないのだろうか。そう考えれば、田中邦衛も一目でわかったのは、顔の特徴が変わってないからなんだろうな。

    舞台となる網走には、まだ網走刑務所が実在する。勿論施設は刷新されている。今では観光地となっている場所は、作中では逃走が始まったあたり…かな?(Amazonプライムだと、59:15秒あたりにブリーフィングの場面)刑務所より南に少しいったところ、山ん中だ。

    なお、この観光施設内部の道を、Googleストリートビューでうろうろすることが出来る。ガラスに映った姿から、自転車のようなもので撮影したことがわかる。通常の営業時に撮影したようで、観光客やバスガイドの姿も見ることができる。多くの人が物珍しそうな視線を送っている。ところで、入り口に置かれている人形には顔モザイクがかかっていないのがびっくり。手動でモザイク消したかな?プログラム的な解釈でこれが出来るというんだったら凄い話だ。Google先生の技術力は衰えるところをしらん。人外である、って気もするが、作ったのは間違いなく人だ。

    作中と同じように脱獄して、スマホとgoogleマップがあったらどこ行くかなーなんて考えてみたりしてね。作中は南西方向へ逃走し、最終的には釧路を目指している。直線でも120Kmほどある。逃走にあたり、「行けると思ってんのかい」とのセリフも尤もな疑問だ。中標津あたりで、5Km四方にキレイに区画された林?がある。あれはなんだ?

    もぅまぢ余談。作品自体はお勧めよ~。

  • どくしょかんそうぶん

    「鑑定士と顔のない依頼人」を見た

    ネタバレですよ。英語での原題は”The Best Offer”

    騙された!の一言で説明がついてしまう物語だけど、肝心のところは具体的な説明をしていない。端折っているともいえるかな?よって、キツネにつままれたというような、うすらぼんやりとした感じが出ていると思う。観客に想像させる手法とか言えば良いんですかね、こういうのは。対象の物品が山のような美術品コレクション、つまり価値に揺らぎがある。ある人にとっては至宝であり、ある人にとっては滑稽なオブジェ。動いた金で言えばそらあ大した金額で、こいつをすっこーんととられるわけだ。いやぁ見事にやられましたなあ、と。

    さて。

    愚鈍な自分でも映画をいくつか見ていると、事件は登場人物が起こすと気付く(当たり前だ)本作も豪快にどんでん返しを持ってくるわけだが、スッとつながる線が細い印象。あらましは把握したけど、あれ?なんでだっけ?ってなる。あの女が隠し部屋のコレクションを目にしたのは偶然でしかないように見える。これが仕込まれた詐欺なら最初の電話の時点から騙す目的じゃないと何もかもが成立しない。主人公のコレクションは誰が知っている?登場人物のどこまで仲間なんだろう…。あの女の使用人はもちろん仲間だろう。ではメカニックの恋人はどうだ?主人公のマネージャー的な人は…違うか?

    すると…オークションでグルになって絵を買い漁っていたあの爺が黒幕かと思い当たる。彼なら、主人公の「手持ち」のアイテムがどこかに存在することは知っている。なんならその価値も。主人公がグルですもの。あの女を潜り込ませ、場所を把握したら運び出してミッション完了。そういう筋書きが進んでいると観客にバレては面白くないわけで(当たり前だ)見事なもんだね。悲嘆にくれる主人公に同情してしまいそうになるが、そうだった、このコレクションは”不法”に手に入れたものなんだよ、そもそも。警察署の前ので立ち止まり、一瞥をくれて立ち去る場面もあった。警察に被害を届けないのは、不法に手に入れたものだからだ。なるほど~。

    多分、解説とか考察をしたサイトはいっぱいあるだろうから、気になる人はそちらをあたってくだされば。ここで一つ、そういうサイトを読んでいて気付いたのですが、本作はamazonプライムビデオで見たのですが(当たり前だ)劇場で見た人のレビューから察するに、”事件後”の興味深いシーンがカットされているようです。病院に放り込まれた後、外に出ていく原動力になった何かが…。んもー。

    ま、楽しめる作品でした。