ちくたく
アナログ時計が動くと、その機構のカチコチ音がする。PCと空調を止め、お布団に入って照明から伸ばしたビニールひもを二回引く。
闇。
聞こえてくる。秋には虫の声が楽しめる部屋だ、静かなもんでとても良い。耳をすませば秒針のコッ…コッ…と音がする。普通のご家庭では、時計はやや高い壁に掛けてあるものだろう、ふつう。目に付く場所に置くんだから必然、そうなる。自分は机のすぐ横、のスチールラックにひっかけて、ぶらさげている。布団に入って、ラック時計と耳の直線距離はおおよそ1.5mといった所だ。そら良く聞こえもする。
スマホにPCがありながらにして壁掛け時計の需要があるとも思ってなかった。仕事も私生活もどっぷりとスマホにPCだ。時刻が分からなくなるタイミングなど、ない。そう思ってはいたのだが…案外役に立っているものだ。この狭い部屋に一人、しかしPCからもスマホからも離れるタイミングというのがある。朝の出勤前に身支度をしている時間帯がそれにあたる。寝間着でだらしなくヒゲ剃ったり冷蔵庫から飯を漁ったりする時間帯。PCはよほどの事がないかぎりは前夜からのスリープモードのままで、スマホはまた別の場所に置いてある。朝の身支度なんて一日で一番時間を気にする時間帯に、なんたること、時刻が分からない!
このラック掛け時計が、玄関周り、つまり1Kの間取りでいうキッチンからも見えるのが良くて。歯磨きしながら時計を見て、時間がないから燃えないゴミをまとめるのは次回にするか~、などと役立っている。其のアングルから見えることを要件とするならば、この賃貸すまいでは、ここのラックのこの面に引っ掛ける以外にない。玄関から見てこのラックの奥側はベランダに出入りする大きいスライド窓。窓の上の壁面に引っ掛けても、台所からでは鴨居の裏になり、見えないのだ。
しかしそれならば、台所に設置しても同じことではないのか?そう、地震で落っこちるその日までは。鴨居のあたりにあるブレーカーのハコに載せていたっけな…?
現在の場所に時計を落ち着けてから、目線より低い所にあるその非日常な感じが面白い。見やすいように敢えて大きめのサイズにしたのも良い。パソコンのラックであるので、プリンターが隣にあったり、何かケーブルが周りを走っているのがとてもフォトジェニック。スチームパンクでなんたら映え。ずれ。闇と音の話だった。
針が薄緑色に蛍光発色するアナログ時計を見つめていて、音はない。秒針は光らないがそこに動いているであろう針に合わせて頭の中でリズムを刻む。60,70と進めても分針が動く様子がなく、とても不安になり、布団を頭から被った。これは一体何の記憶だろう。
おふとぅんに積んだ夜の底、蛍で削いだ白の粉。
スマホが震えて喚く頃には、ビニル紐から仕込み針。
朝。