蒼天を焼くこと能わず
鳴りやまないアラームはすでに30分を超えた。
時刻は24:00になろうかという所、連休中で不審火とか洒落にならない。外の様子を伺うに、特に煙や臭いもなく、通りの向かいのアパートから自分と同じように様子を伺う人の姿はあれど、火災の様子はない。そのうち止まるだろうと放っておいたが、どうにも止まない。まあそれもそれで面白いか、などと呑気な事を言っていたら、こうして30分が過ぎ、ドアの外に複数の人の気配があり、騒々しくなってきた。これではそ~~~っとドアを開けざるを得ない。
「あっ!?」
火災報知機に向かって何か作業をしていた人が驚いてこちらを見る。自分の部屋の蓮向かいの部屋、その入り口横の報知器が鳴っていたようだ。マジで。部屋の明かりは消していたし、この騒ぎで部屋に人がいるとは思わないだろう。警官もわらわら居て、こちらの姿を認めると近づいてきた。部屋に異常はないか、他の部屋の住人はいないか、などを聞かれた。他の部屋なんて知るかい。消防も到着して何やら大騒ぎになってきた。無線のやり取りを聞くに、報知器が鳴ってすぐに通報がいったのだが、通報者が住所を誤って伝えたため他の現場に行き、当然何事もないので引き上げたところに、「通報したのに何も来ない」と再度の通報があり、こちらにやってきたらしい。本気の火事ならだれか死んでないかそれ。
「ここに警察を呼ぶ」ボタンとか作ればいいのに。住所を口頭で伝える必要がある、というのは安定国家の社会インフラとして欠陥だろ。
この部屋に警官がやってくるのは四度目だが、毎回のように管理会社はどこ?といった質問をする。そんなもんググればわかると思うが、警察で調べることもできないというのは組織の機能としてしょぼすぎる。ただ、これは不審者をふるいにかける意味があるのかもしれない。部屋の中から出てきた自分が、この部屋の住人とは限らない。住人を殺害して一夜をやり過ごそうとしているのかもしれないし。非常ベルだって火災を目撃して鳴らしたとも限らんよ。管理会社を知らない、とでも言えば怪しいどころの話ではないだろう。
先ほどの作業員が(警察でも消防でも不動産と契約しているメンテ会社でもないようなのだが、こういう通報に対処する部門でもあるのだろうか)ペンチ貸してくれませんか、などと言ってきたので呆れつつ貸した。工具の準備もないとか大丈夫なのかこの人たち。ペンチを貸して作業員が姿をけし、しばらくすると警報が止まった。警察とのやり取りの間鳴りっぱなしであった。管理会社は連休中休みらしい。消防の作業員は各部屋のチェックをしたあとはぼんやりと佇んでいたが、取り敢えず誤作動のようだとわかると帰って行った。一人女性がいたのが印象深い。
気付くと誰もいなくなっていた。
休日、もはや夏空ともいえる空模様に、これ以上の平和と幸福もないよな、なんて思う。それだけで残りの人生を過ごせればいいのに、そうもいかないのが腹立たしい。うっかり裕福層にでもなったら、手に入れるべきものはそれだけ。奥ゆかしくもあり、くだらない妄言でもある。