どくしょかんそうぶん

「Nomadland」を観た

邦題も「ノマドランド」

ゲーマーや世界史好きは「ノマド」がどんなものがなんとなくイメージがつく。やまとことばで「フーテン」といいますが、これは嘘です。ドキュメンタリーの原作があり、いわゆる映画化作品。

日本にもこういう生活をしている人は…いなくはないんだろう。でも、東京に住んでいて、車を使う機会もゼロの自分の暮らしでは接点はない。それに、どちらかと言えば道楽でやっている人たちが多い印象だ。でっかい車をカスタマイズして、生活も成り立ちます( ・´ー・`)ドヤァ。みたいな。一方で河川敷を占拠して住んでいる人たちが、車で各地を転々として暮らしているような状況は、全く想像できない。何も無理に現代日本と対比する筋書きではないけど、少なくとも仕事に困ると住居にも困り、住居に困ると仕事にも困り、老いの頃はさらなり、という状況に陥るのはアメリカでもまあまあ同じようだ。当然か。

そこは心情が繋がる部分もあるが、この景色をみさらせ。無料AIでも生成できそうな、我々がイメージする通りのアメリカの景色テンプレ。街の風景だってそうだ、なんだあの道の広さ。こちらは大変お世話になっておる配送業者の軽トラと路地で出会うと身をよじって交わすんだぞ。こんなアメリカのイメージは、中学生の頃に「ターミネーター」を観てからずっと同じだ。それでも本作には、テンプレの景色をそよぐ情緒がデデンデンデデン。

自宅の狭い湯船に浸かって…どうしたものかと諸々の考えに耽る事がある。時に映画を観たりしながら。あるよな。ねえの?明日もやることは決まっているし、ここから寝床まで徒歩10歩だ。玄関ドアに鍵もついている。エアコンは動く。ここから逃げ出す理由もねえ。でも本当は作中と同じ、自分はどこへでも行ける。ペーパードライバーなので一人で運転した経験はないが、合法に運転する資格は有しているし、電車にバスに自転車に徒歩にタクシー。

旅だってさ。

「家に帰るまでが遠足」という我々とは、考え方が違うんだろうか。大西洋を横断するとか西海岸までいって金を掘るとか、その頃の感覚でキャンピングカー転がしてんだろうか。作中で冒頭から語られる”2008年の経済危機”とはいわゆるリーマンショックの事だ。家を失った人は実際にいたんだろう。職が安定していればこんなくるま暮らしはしない。どうしましょうかと途方に暮れているという状況なのに、ちょっと憧れを覚えなくもない。だってこんなにも穏やかな作品だ。銃も出てこない。フィラデルフィアの例の通りに比べれば、「ノマド」なんて言ってられる暮らしというのはそこまでネガティブで、エクストリームなシチュエーションでもないんだろうか。原作にどう書いてあるかは知らないが…。

こちらはフィラデルフィアの例の通りの様子

所詮は映画ですから、現実はこんな平和なわけもないんだろう。自分はあの車を避難所みたいな感覚で見たと思う。台風が過ぎればもとに戻れるし、揺れが収まったら机の下からのっそり出てくるような。そこまで日常と離れてない、ただ一時の雨宿り。

実際に自分の身に降りかかれば、本作よりも悲惨になる可能性が高い。東京に住んでいるから、ホームレスの人々というのは何度も目撃している。俺もあんな感じになるんだろう。まさしく、あの通りに、なるんだろう。ノマドと呼ばれるほど生活の方向性もない。またランドなんて呼べるほどの土地も人々とのつながりも無い。日本の格差は縦に長い。階級を移動する長い梯子があるが、踏み外せば助からない。お車でじっくり攻略できる代物ではないのだ。

そう思うと本作の景色は未来のエスエフみたいなだ。火星に着いた人類も、滅んだ地球の生き残りも、こうやってお車で暮らすんじゃないかね。ああそうだ、俺はきっとこの景色を、ゲームで見慣れたんだな。FalloutとかFracryとかさ。

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