ふでのゆくまま

びゃうびゃう

電線が鳴っていた。

この日春一番が吹き荒れた都内、とっぷり陽が落ちた後に外に出ても、冷たさは殆どない。仕事を済ませ月光そぼ降る帰路は24:00をまわっている。空き地に井戸でも掘るような機械が突き刺さっていて、大地がチョコレート状に溶けたような様子を思い浮かべる。あわてて月が息を吹きかけて凍らせる。その固まった大地のかけらが命の証、祝福の絆。電線の鳴る音は故郷を思い出す。正月に泊まりに行った母の実家に吹き付ける寒波。家全体がごんごんと鳴る。電線も鳴り止まず、何処かの家の何かが飛ばされて転がっていく。とても寒くて、重いぐらいにかぶせられた布団にすっぽりともぐりこんで、ふるやかに暖まる、溶かしていく、足を伸ばして、まだ固まっているところにふれて、びくりと足を引っ込める。風の音から逃げる。今は味方がいない!

冷蔵庫の中身を思い出そうとするのだけど、薄暗い部屋にぽそぽそ漏れるオレンジの光だけが思い起こされて、こころが暖まらない。コンビニでお茶とおにぎりを買って帰り、冷蔵庫を開けると自分が作った蒟蒻と生揚げの煮物が冷えていて、冷えに冷え切っているのだがぷにぷにしていて、月光の祝福が足りないと思ったので庭に捨てた。雲の流れが速くて、これでは今夜は無事には済まないだろうと思って、脱兎の如くに月から帰りついたが我が家、非常用持ち出し袋の緒が切れた。チョコレートがいない!

あああ、思い出した、この電線の音は、縄跳びで二重跳びが出来た子の。びゃうびゃう。

2件のコメント

  • 夜光劣者

    はじめまして。コトノハからのファンです。おっさんですけど。
    いつも覗き見していただけですけど、琴線に触れてカキコしてしまいました。
    いいですね。自分が書きたかったと嫉妬しました^^

    • いしにょ

      あれまいらっしゃいませ。確かに見覚えのあるお名前ですねえ。どちらよりおいででしょうか、まあ僻地までようこそようこそ。コトノハとはまた懐かしいですねー。フ○ッチャーさんが10万超えているのは知ってます(笑)

      今後もごひいきの程を・・・。

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