ふでのゆくまま

想像しない日がやってくる、アレを使う日が

来ないと思っていた日がすぐにやってくる。重力波に見えた太陽暦のなせる業。

休日出勤で自社多部署のお手伝い、朝もはよから二時間近くも電車で移動するので普段よりもむしろ早起きという渋々に嫌嫌な案件で御座います。な、おりに前日の夜になって現場で使う資料の差し替えがやってきました。現場での具体的な作業の手順書なのでカラーで数十枚印刷する必要があり、そんな大量に自宅で印刷したことないので取り敢えずPDFにしてコンビニに行ってみた。しかし一枚50円(自腹)では流石にちょっと…。試してみたけど早くもない。なるようになれと自宅のプリンタでインク節約モードでヒヤヒヤしながら印刷。怪しい色になったが許容範囲だ。

それを閉じるべくホチキスが…ここには無くて、普段の常駐勤務地の引き出し一段目左側にあるというわけです。クリップで挟んで誤魔化そうかとも思ったが…この際買おうか。先ほどのコンビニでお買い上げ。店員さん、ぼくの事情が伝わっていますか?如何に技術が進もうが、紙が無くなるにはまだまだ時間がかかるだろう。ならば当然、その間は、ホチキスとかの出番もある。今時の高級なオフィスプリンターはホチキス留めまで印刷と一緒にやってくれるらしい。そりゃペーパーレスなんて進まないわな。

自分たちが今、例えばミシンに対して抱くような印象を、その、時代の人はホチキスやシュレッダーに対して抱くだろうなあ。財布なんてものも謎のアイテムになるかもしれない。

シュレッダーも家にはない。あるかそんなもん。あんなゴンゴン言わす洗濯機みたいなの、って最近は個人用途の卓上サイズもあるのね。100円ショップで個人情報消去スタンプと、手動シュレッドハサミをお買い上げして、使い終わった資料と、ついでに押入れから出てきた請求書領収書伝票。数年分。じつに一週間毎日お家で、トータル9時間ほどかけて手動でチョキチョキ。没頭。なんか悩みやイライラが消えていくような気がして、こんな大量にさばくのももうないかなーって思って最後まで鼻歌交じりで手動でチョキチョキ♪

嘘だよな。思ってもない事書いた。気取ったか。洒落っ気か。実際は過去に逆恨みをぶつけて、心の病みたいにしかめ面で切りつけた。金曜の夜に3時間。力いっぱいハサミを握りしめ続けた。ゴミ袋からコースアウトした破片どもも、最後の一枚の処理が終わるまで、すなわち一週間ほどは床に散ったままだった。火が使えるんだったら燃やして終わりのくせに何が鼻歌まじりか面倒くせえ。床の破片をふと一枚拾ってみると、「病」という文字が判読出来てあゝ紙きれまで僕を蔑むのですお代官様裁きを。ネット引き回しの刑。

自分の名前や住所を切り刻み続けるというのも、なかなかに薄気味の悪い響きがある行為だ。これだけ大量に印刷された紙を一枚一枚眺めてからハサミを入れる様なことを数日も続けていると、やがて気付くのだが、個人情報が書かれているような場所はフォントが異なっていたり、枠の色が変わっていたり、推測が出来る。文字と空白のパターンなども特徴がある。ざっくりと考えて、一文字を4分割ぐらいの細かさではそもそもの細かく切る目的を達成できないのではないか。細かくした紙からそのレイアウトを逆算できるかと言われるとまあ簡単ではない気もすんだけど、なにせ数が多いとなればな。

20Lのゴミ袋一つでは収まらなかった紙くずを気に掛ける。現代社会で当然の対応だと言っても、ハサミで切っているあたりも鑑みてまあいかにもビョーキだ。部屋ごと燃やすぐらいの爽快な解決策を進ぜたいですお代官様。

—お前の名前が燃えるときだけな、炎の色が違っていたのを見たんだ。

「放火の咎にて打ち首獄門、しかし情状足る故を認め、首には目隠しをして進ぜよう。」「お代官様お心づかいは無用で御座います」「なにゆえであるか」「故人情報は反故されますが由に」

ブログとかが中の人逝去によりサーバ料金やドメインの支払い停止で消えていくの、何とも美しいと思う。その手前に家族や親しい人が訃報を残しているようなの、実に良いと思う…。インターネッツの無限に思えるリソースの中に、それが枯れていく仕組みが実装されているの、面白い。もしかして、なんて思っているうちにふっと消えていく。そう、そうだよね。故人の思い出などは生きているうちに集めておくものなんだよな、そういったものが必要になる日が来るなんてみんな想像してないが、すぐにやってくる。想像してない日が、アレを使う日が。

誰ですかステープラーなどと言っておるのは。

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